社会

大事件となったある「神託結婚」の失敗

大事件となったある「神託結婚」の失敗

心の中の神を、真っ直ぐに

見つめることのできた人間から、

順番に会を去っていった。



大事件となった神託結婚
愛なき断罪と追放の実態

《大事件となったある「神託結婚」の失敗》

大川主宰にひとつの神示が下った。
88年12月のその神示は、それから2カ月のあいだ会を揺るがし、初期〈幸福の科学〉最大の事件に発展していった。
それは会随一の求道者・阿南浩行に佐藤真知子と結婚せよ!と命じる神示だった。
前にお話ししたように、阿南は一部上場企業の職を捨てて会に参加してきた、筋金入りの求道者である。
大川にも負けないほど頭脳明晰で、最近の若者には珍しい落ち着きぶりでも際立っていた。
情熱を燃やして学習に取り組む姿に〔さすがアーナンダの生まれ変わりだ〕と感心したものである。
そんな彼に思いを寄せる女性も少なくなかった。
私は彼の鋭い洞察力を密かに恐れていた。
修行の足りない私の心の実態が、阿南には手にとるように読めるのではないかと怖かったのである。
そういう私とはまた違った意味で、大川隆法も彼を恐れているように見えた。
たとえば学習会の席で鋭い質問をぶつけるのはいつも阿南だった。
会に入ってから勉強したのか以前から学んでいたのか、該博な知識から発せられる見事な質問に、私たちは しばしば舌を巻いた。
大川が阿南を恐れていたとすれば、その知識だったろう。
幹部だけの学習会でも、阿南の質問に答えられない場面が何度かあった。
むろん、わからないなどとは口が裂けても言わない。
正面から答えようとせず、冗談に紛らしてしまう。
大川のいつものやり方だった。
さすがに言葉にする者はいなかったが、誰もが〔もしかしたら阿南のほうが、先生よりもよく知っているんじゃないか〕と感じていたと思う。
そんな阿南に真知子と結婚せよという神示が下ったのである。
いくら神託結婚と言っても、奇想天外な組み合わせだった。
今までの神託結婚は、中原と私をはじめ奇想天外というのではなかった。
二人の当事者には、ある程度のつながりがあったからである。
しかし阿南と真知子の場合は、つながりはないに等しい。
互いに口をきいたことすらなかったのだ。
マジメで学究肌の阿南と、まわりに子分を集めてキャーキャー騒いでいる真知子。
この組み合わせに、彼らを知るすべての会員が仰天した。
誰の目にも不釣り合いだった。
個性とか性格といった単純なことではなく、住む世界がまるで違うという感じがした。
今にして私はこの不自然さに、阿南を煙たく思う大川と、真知子を自分の配下に置こうとする大川夫人の意図を感じる。
彼らの最も身近にいた人間としてのカンである。
しかしこの神託が大きな事件に発展するまで、私たちはみんな
〔神様もイキなことをする。我々の想像もつかないところで、チャンと組み合わせができているんだ。赤い糸というのは、こういうことかな〕
などと、のんきなことを言い合っていたのである。
阿南が どんなに苦しんでいるかも知らずに……
大川は阿南を呼んで、ちょっと話があると言ったらしい。
後日、阿南本人から聞いたところをそのまま書いてみよう。
──指定の場所へ行ってみると、大川夫妻と真知子が待っていた。
席についた阿南の前に、大川がカレンダーを広げた。
「この日です」と大川はカレンダーを指した。
「私が自転車を走らせて、阿南さんのために、この日に式場の予約をしてきました」
阿南が混乱していると、おもむろにこう言ったのである。
「ここにいる佐藤真知子さんと結婚式を挙げていただきます」
あっけにとられて、阿南はしばらく返事ができなかった。
中原と私のケースで一度成功していたから、大川には勝算があったのだろう。
自信たっぷりだったという。
あのときの中原もそうだったが、真知子のほうはすでに言い含められていた。
しかし私とは違い、阿南は簡単には言いなりになる男ではなかった。
難色を示すと、大川は怒りを爆発させた。
恭子、真知子の前で、彼を徹底的に侮辱したという。
「あなたは何もわかっていないんだ。だいたいにおいて子どもすぎる。社会的にもっと飛躍しないと、神理を学んでも何にもならない!」
この怒りはその後しばらくつづき、阿南のいない場所でもときどき噴き上げてきた。
私がクルマで送迎するときも、後ろのシートでは阿南に対する攻撃が延々とつづいた。
大川という人は、そこにいない人の悪口を言うのを好むタイプの人間である。
会議の席や、昼食のとき、あるいはクルマの中で、どれほど幹部連中の悪口を聞かされたかわからない。
能力のあるなしから始まり、ときには人間的な弱点まであげつらった。
その性癖が、阿南事件ではますますエスカレートした。
聞いている私のはうが憂鬱になるほどコキおろしてみせた。
阿南の悩みは深刻だった。
数日後の朝、私の机の上に一通の封書が置かれていた。
阿南からの相談の手紙だった。
そこには「結婚のことで悩んでいる」とあった。
じつくり考えてみたけれど、真知子とはどうしても合いそうにない。
しかし神のお告げと信じきっている彼女には、自分の考えが伝わらない。
どうしたらいいだろうか、ということだった。
あの頃の会は「あの人にも神託があったんだって。羨ましいわね」「私も早く神託がほしいわ」という感じの雰囲気が支配的だった。
それでうかつにも、私たちは阿南がそんなに苦しんでいるとは気づかなかったのである。
さっそく真知子と会うことにした。
西荻窪の駅ビルの六階にある中華料理店へ、彼女を昼食に誘った。
「真知子さんは阿南さんが好きなの?」
「とても素晴らしい方と心から尊敬申し上げています」
まず彼女の気持ちを聞いてみるつもりだった。
しかし会話したこともない阿南に対して、彼女も特別な感情は持てないでいるらしい。
「私と中原さんの神託があったときはビックリした。
でも、ずっと前から仲良しだったからね。
けれど、あなたたちはどうかな。
私には、二人には接点みたいなものがないように見えます。
もしお互いに引き合うものがなかったら、ムリに結婚しなくてもいいと思いますよ」
「阿南さんを尊敬し、お慕いしています。
それに先生のお言葉ですから、きっと幸せになれると信じておりますわ」
彼女はキッパリと言い切った。
好き嫌いより信仰のほうが大切だと言いたげな、これも一途な真知子であった。
阿南も、ある程度の覚悟を固めたのだろうか。
暮れも押し詰まった頃、真知子の実家へ電話を入れている。
こんな思いがけないことになったが、まずは自分を知っていただきたい、ということのようだった。
真知子の家族は一家をあげて〈幸福の科学〉の会員だったから、異議のあろうはずもなかった。

《愛なき断罪と追放の実態》

事態は進捗しないまま、あの忘年会の夜がやってきた。
50人ほどの職員を研修場の2階に集め、ビールやつまみをならべて、一年の労をねぎらうささやかな宴会が開かれた。
その席で総務局長の私から、阿南と真知子の神託結婚を発表したが、発表するまでもなくもう全員が知っていた。
底抜けの明るさで人気のあった真知子が結婚することに、ガッカリしている男性も少なくなかった。
彼女は嬉しそうに見えた。
阿南のほうは、彼女から離れた席で固い表情を崩さずに座っていた。
神託結婚の報告でワッと盛りあがって始まった忘年会だったが、じきに重苦しい雰囲気に変わっていった。
真知子が声をあげて泣きだしたのである。
トラブルが生じたときの常で、私が何か言いだすしかなかった。
「おい、みんな。今こそ神理を打ち建てる大事なときだ。
我々の人生には、これからも いろんなことがあるだろう。
みんな〈光の天使〉なんだ。
大きな心で、花も嵐も踏み越えて生きていこうじゃないか」
最後のほうは、自分自身に言い聞かせているかのような気持ちになった。
正月を迎えるために阿南は関西の実家へ帰っていった。
真知子のことも両親に伝えなければならない。
しかし神託結婚の話をすると、狂人あつかいされたという。
そう、それが常識ある人間なのだ。
〈幸福の科学〉という狭い世界の中で、その常識を私たちが忘れかけていたということなのだ。
〈幸福の科学〉は〔偉大なる常識人〕を理念のひとつとして掲げている。
しかし〔偉大なる常識人〕をいくら説いても、それで常識人になれるわけではない。
健全な常識は、職場や家庭で懸命に自分のつとめを果たし、人と人が互いを思いやり、支え合うような、ありふれた生活の中に存在するのである。
ついでに言い添えておくと〔偉大なる常識人〕の概念は、大川に提出したレポートの中で私がはじめて提唱したものである。
それが、いつの間にか会のモットーとして定着してしまった。
明けて1989年1月。
年末年始の10日間の休暇を、家族という常識世界に触れてすごした阿南は、心を固めて東京へ戻ってきたようだ。
彼は大川に、この話はなかったことにしてほしいと訴えた。
大川のワンマン体制下では、その意向に逆らえば、会から追放されても文句は言えなかった。
よほど勇気が要ったに違いない。
なにしろ仏陀の指示を拒むのである。
阿南浩行は自分の心に正直にしたがった。
たとえ全知全能の神の命令でも、自分がおかしいと感じたら、やはりおかしいのではないか。
彼は自らの行動で、そのことを私たちに問いかけたのである。
けれど私たちはまだ自分の〔浅はかな考え〕よりも、大川の霊言を信じていた。
「神は自分の心の中にある」と高橋信次は繰り返し説いた。
そういう心の中の神を、真っ直ぐに見つめることのできた人間から、順番に会を去っていった。
「明日から出社におよばずだ!もう出てくる必要はない!」
大川の憤慨は、私たちも はじめて見るほど激しいものだった。
「佐藤家を訪問したというのは、すでに承諾したと同じではないか。
相手に正式に結婚の申込みをしたということだ。今さら断れない!」
六大神通力を持つはずの主宰先生が、怒りのためにその能力に曇りが生じたのか、すでに阿南は真知子の実家へ挨拶にいったものと勝手に思い込んでいた。
「神託結婚を承諾できないのは、高級霊からの霊言が信じられないということだ。
これだけの本(当時は60冊)を認めないと言っているんだ。信仰心がなってない!」
「自惚れている。大したこともできないくせに!」
局長会議が頻繁に開かれた。
そのたびに、私たちは、主宰先生の〔不調和な言魂の響き〕を耳にしなければならなかった。
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